運命のいたずらによって、引き裂かれていた二人が再会するその時がやってきた!

竹内さん!お待たせいたしました!ボクが来ればもう大丈夫です!任せてください!

ついに加藤くんが日本から5000キロも離れたこの地へ駆けつけ、さらに無意味に4日間も車を駆って、ついに私を助けにやってきてくれたのだ!

ああ!白馬の王子様が迎えに来てくれたようだ!私が女だったら、もう大変なことになっていますな。お姫様だっこされて、「風と共に去りぬ」の曲がかかるところだ。

男でヨカッタ!ヨカッタ!

関係ない話だが、あの「風と共に去りぬ」がなぜ不朽の名作なのかがまったくわからない。

おおー!なんて頼もしい!!

加藤くんは、なんの根拠もなく大丈夫!と自信満々に豪語する悪い癖がある・・・。それさえなければ、理想の男性なのに・・・。

加藤くーん!会いたかったよー!!助かるよー!!

早速だけど、そこのイスを右に動かしてくれるかな?もうちょっと右!やっぱり左!うーん、やっぱり得意の気合でしばらく持ち上げていてくれるかな?

いやー!本当に頼もしい!!ステキー!!

そんな加藤慶信くんはやはり8000m峰8つの登頂経験を持つ、日本を代表する高所クライマーだ。

私とは1999年に中国とブータン国境にあるリャンカンカンリ(7535m)というマニアックな未踏峰を初登頂したときのチームメンバーだ。

さらに、この日本代表!は数ヶ月前に、草フットサルで足をバッキリ!折って、チタンボルト内蔵の体となり、自身の体をもって、ヒマラヤ登山よりフットサルの方が危険なスポーツであることを証明した学術的価値のある男でもある。

今回は怪我人が怪我人を迎えにきたようなもんだ。

今晩から平出くんと交代で加藤くんが泊り込みで24時間介護サービスにあたることになった。

その夜・・・・・

二人っきりのロマンチックな夜も更け、そろそろ寝ようか?というとき、ふと気がつくと・・・・

あれ?こんなに静かだったっけ?

サクションされているドレナージのボックスからはいつも、ブクブク!ブクブク!とうるさいくらいの音がしていたはずだけど、気がつくとその音が聞こえない。

あれ?まさか止まってる?

すぐにナースコールで看護師さんを呼んで、

ドレナージがおかしいと思うんだけど・・・って言うと、その看護師さんは小さな胸を、大きくはって!

ノープロブレム!!

いや、おかしい!

そう言えば、以前、看護師さんがこのドレナージをなにやら調整しようといじっていると、それを見守っていた小林先生が

あー!!待てー!!それは抜くなー!!!

って大声で止めてた・・・それって、なんかの危機一髪??

誰か、別の分かる人を連れて来てー!

そして、やってきたのは一人の男の人なんだけど・・・この人は何の人なんだろうか?

その人は一通り、ドレナージをいじくって満足げに立ち上がると、

なんと!こともあろうことに!

加藤くんをしげしげと見つめると・・・

えーっと・・・これでいいの?

オレに聞くなー!!

加藤くんに聞くなー!!

二人同時に声を上げる!

 もう、夜もすっかり遅いというのに、慌てて小林先生に電話で助けを求める!

 なんか、ドレナージがなんかになって、なんかの人が来て、加藤くんにこれでいいの?とか聞いてますよー!ちょっぴり命の危機を感じまーす!

 先生は看護師さんも、他のスタッフもきっとドレナージなんて見たことも無いかもしれないからとにかくドクターを呼ぶように!との指示。

 あー・・この男の人ってのはただの「病院の人」ってだけのことか・・・

 すぐに、そこで立ち尽くしている看護師さんにドクターを呼ぶように頼んで、やってきたドクターは、幸いなことに、すぐに何かを調整して直してくれた。

 最初からドクターを連れてきてくれればいいのに。

 やれやれ・・・なにもかもがエキサイティングだ!

話は違うんだけど、一人、とってもかわいい看護師さんがいてね。

名前はファトマさん。女性の名前はちゃんと覚えてるよ!笑顔がステキ!

加藤くんがさ、この、ファトマさんのこと好きになっちゃってさー。

彼女が私の脈をとったり、血圧を測ったりしていると、加藤くんは指をくわえて、うらやましそーに、彼女を見つめ、私を睨むんだよ。

その加藤くんの様子があまりにいじましいので、見かねた小林先生が、彼女に、

加藤くんの血圧も計ってあげて!って、水を向けてくれたんだよ!!

  彼女がにこやかに加藤くんの腕に血圧計をセットしてくれる!

やったー!加藤くん、チャンス到来!!

 手だ!手!にぎっちゃえ!!つい!って感じで事故を装うんだ!

 むむむ、無理です・・・。

加藤くん!気合で血圧上げろ!!血圧を上げるんだ!!

 ちょっと、血圧高いですねって言われたら、

キミのせいだよ・・・って答えろ!!

 彼女は血圧計を見ながら、にこやかにGood!って言っちゃったよ・・・。

あーあ、まったく、だらしないな!ぜんぜん血圧あがってないじゃないか!

 気合が足らんよ!この、意気地なし!

しかし!最後に加藤慶信!男を見せる!!

 立ち去ろうとした彼女に加藤くんなりの爽やかな笑顔で握手を求めたのだ!

しかーし!

 あ・・、私パキスタン人なので・・・(イスラムなので男性とは握手とかしない)

 加藤くんの差し出した右手はむなしく虚空をさまようのであった・・・。

つづく・・・

加藤くんとファトマさんは始まりもしませんし続きもしません。

入院顛末がつづく!