えっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ちょっと待ってー!!
 ななななー! なんんんでー!!

 これまで、散々、入院させないとか言ったくせに、今度は退院させないってどう言うことー??
 彼はにこやかに、そして丁寧に説明を始めた。

今日、撮ったCTによると右の肺にも気胸が起きているとの報告がありました。左の肺はドレナージをしているので、飛行機に乗るには右の肺に問題がないというのが絶対条件です。
右の肺に気胸が起きていれば、飛行機の機内では圧力が0.8から0.85程度しかないので、場合によっては右の肺もつぶれて呼吸ができなくなり、死に至る可能性があります。

ででで、でも・・・すでに明日のフライトに航空会社が機内にベッドを設置する手配もしていて・・・

あなたにとって、今必要なことは、明日帰ることではなくて、命を優先することです。
 右肺に気胸があって、飛行機に乗れば重大な問題が起きることは、医学的な常識です。その上で、あなたの退院を許可することは、私の責任としてできません。
 ほかになにか質問はありますか?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 では、ごきげんよう。

 ちょっと!まってー!もう一度、まってー!!
 質問はありません!お願いがあります!!
 小林先生と話をしていただけませんか?今のことを小林先生にも説明してもらえませんかー?
 私は携帯電話で小林先生の携帯にダイアルをしながら、彼にすがった・・・。

 ええ、よろこんで。
 
 電話の向こうでは、また何か問題が起きたのか!と緊張した小林先生の声が聞こえた。
 
 小林せんせーい!大変です!! 
 こんどは、退院させないって言ってます!!

 彼は、電話を受け取ると、小林先生にこれまでの話を伝えてくれたようだ。ひとしきり、やり取りが終わると、同じく柔和な笑みを浮かべながら、私に電話を返し、静かに帰っていかれた・・・。
 ぼーぜん・・・と待っていた私は、我に帰って、小林先生に
 ななな!何ですって??

 小林先生は
 うーん・・・右肺のことは気がつかなったな・・・・・確かに右肺に気胸が起きていたら、帰れません・・・・。
 ちょっと待ってくださいね・・・今、そのCTの画像を見ますから・・・・
 あっ・・・・・確かに・・・これかー・・・
 うーん・・でも、これは気胸ではなくて、画像エラーだと思うんだけどな・・・・うーん・・・・・
うん!これは、気胸ではないですね。画像のエラーですね。
でも、そのドクターが気胸だと言い張ったら、確かに退院できない可能性もあります。
 彼は、報告を受けているだけで、実際にはまだCTの画像を直接は見ていないと言っているので、明日、彼と会って直接話すことにしたので最後まで粘ってみましょう!
では・・・明日・・・・。

 なんってこったー・・・
 ようやく、ここまで漕ぎつけて、こんなことになるとは・・・・。
 こんなに、持ち上げておいて叩き落とされるとは・・・言葉もない・・・。

 翌日、早々に小林先生が来てくださった。
 確かに、CTの画像に影があるのですが、これは間違いなく気胸ではありません!画像のエラーです。
 でも、そのドクターが画像エラーでない!気胸だ!と言い張れば、それまでです・・・。
 しかし、彼に「これは、画像エラーだ!!」と攻め立てて、パキスタン人ドクターの高いプライドを傷つけるようなことになれば、向こうも後には引かない可能性もありますね・・・・。
 昨日、電話で話した感じでは、他のパキスタン人ドクターとは明らかに違って、丁寧で理知的な感じがしますが・・・逆に手強いかもしれません・・・・。
 最悪、自己退院というか、勝手に出て行っちゃうって方法もありますがね・・・・。
で・・・・・・・
 小林先生はニヤッっと笑うと、
 そこで!作戦を考えました!!
 ひとつ、お芝居をしましょう!!
 お母さんが危篤で、今、帰らないと死に目に会えない・・・だから、帰らせてくれ!
なーんてのはどうでしょうね?
 パキスタン人は家族に関わる話には弱いですからねー!お母さんが危篤ってのは、かなり訴えると思うんですよ!
 どうです?
 お芝居できます??泣けます?

 これまでの戦うドクター小林誠にしては、意外な提案だなーって思いながらも、小林先生が言うんだから間違いはないのだろう。
 と、言うか、それしか方法が無いほどに、事態は差し迫っているのだ!
 フライトの時間はどんどん、迫ってくる。なんとか、嘘でもハッタリでも、彼を説き伏せて退院しなければ!!
 パキスタン航空だって、今、乗っていいよって言ってるうちに乗らなければ、いつ気が変ってやっぱりダメ!とか言うかも知れない!その可能性は大いにある!
 そしたらどーなる!勘弁してくれー!

 よし!!私のアカデミー賞ものの演技を見せてやる!!
 ほら!加藤くんもぼーっと突っ立てないで、助演男優賞を狙うつもりで、もらい泣きする練習しておきなさい!!
 そろそろ、ドクターがやって来るはずだ!
 病室内はピリピリと緊張した空気が満ちていた・・・。
 すでに、お芝居の幕は上がっているのだ!さあ!来い!!泣かせてやるー!!

 そして、ついにドアがノックされ、彼がやってきた!!
 涙目モード出力全開!!

入ってきた彼は我々を見渡すと・・・・
 えーっと、CTの画像見てきました。画像のエラーでーす!退院OKでーす!

 はぁー・・・・力が・・・抜けたぁー・・・・。

気を取り直して!
 よし!!帰れるぞ!!帰るぞー!!

つづく
次回最終回!!

Comments

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matsu

ついに次回が最終回ですか? 本当に大変でしたね… リハビリも大変でしょうが… ファイトですo(^▽^)o 1日もはやく復活して美しい山々を見せてください(・ω・)♪

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fumicoba~cyan

はぁ~っ・・・・とりあえず良かった!!こちらも気が抜けましたぁ。無事帰国への道、本当におめでとうございます。でも・・・・アカデミー賞ものの演技の舞台がなくて残念ですよね。加藤さんも残念がっていませんか? 実におしいです。舞台化(?)するときには入れるってのはどうでしょう!?