7月25日・・・・・。

 病室の窓から見上げる空はそんなに天気は悪くなさそうだが、エージェントからはなんの連絡も無いところをみると、今日もダメなんだろう・・・・・。

 あーぁ、せめてイスラマまで戻れればなー・・・。

 平出くんと小松ちゃんは朝からかいがいしく介護をしてくれている。

 まるで、親鳥が子供の口元に餌を運ぶかのように、マンゴーをスプーンですくっては私の口元に運び、マンゴージュースを与えていた。

 ボチボチ、お昼だ。はー・・・こりゃ今日もダメだね・・・・。

夕方には加藤くんが来るからにぎやかになるね。みんなで「鎮痛パーティー」でもやるかね。パーティー用のボルタレンや、食料や、なんか気の利いたお菓子とかを市場に買出しに行ってきてよ。

きっと加藤くんもお腹をすかせてたどり着くだろうからさ・・・・。

そして、二人が、では!行ってきまーす!と出かけようとしたその時!!

 ばーん!!と突然、病室のドアがタタキ開けられると、「ムクツケし!」パキスタン野郎が数人、だーっ!と部屋になだれ込んで来た!!

 エージェントのスタッフが大挙して部屋になだれ込んで来たのだ!!

 ななな!なんだ!!

 ついに、自分たちの不手際を闇に葬るために、オレをどっかに捨てるつもりだな!!

 ヘリが飛ぶ!すでにヘリは待機しているから、これから急いで向かうんだ!!

 やった!!ついに飛ぶか!!

 あっ・・・そう言えば加藤くんどうしよう・・・・。今頃はきっとチラースからこのスカルドに向けて車を飛ばしているにちがいない。きっと、あと数時間で着くはずだ。

 うーん・・・、まあ、イイか!置いていこう!

最悪、この病院まで来ちゃっても、気がついてイスラマまで帰ってくるだろう。(途中、電話は通じない)それくらいの知恵はあるだろう。

 すぐに、事務局の古野さんに電話する。

 まだ、油断なりませんが、これから飛びます!加藤くんは見捨てまーす!

 了解!そのヘリはウチでチャーターしたヘリだから、もう何人乗っても同じ値段だから平出くんと小松ちゃんも乗ってもらって!

 わかりましたー!

 平出くん!小松ちゃん!買い物に行く前でちょうどよかった!すぐに荷物をまとめてヘリポートに来て!どうせ、この後、陸路で帰るなら、一緒にヘリで帰っちゃおう。陸路なら2日、ヘリなら2時間だ!ヘリの中での介護もよろしくー!

 エージェントの責任者に、この二人も同乗するからと、伝えると、彼は突然、動揺しはじめた。

いや・・・、乗るのはヒロだけだって空軍に連絡しちゃたからなー・・・・。そんなに急に言われてもな・・・・・。

 なんだか歯切れが悪い。

 とにかく、二人はホテルから荷物をピックアップしてヘリポートに来るから!

 すかさず、私は、寝ていたコンパネごと、神輿のようにワッショイ!ワッショイ!と外に担ぎ出されてトラックの荷台にボーン!と乗せられた。

 いくらボロボロでもハイエースの後部座席の方がまだマシだ!

 トラックの荷台にコンパネ一枚で直接乗せられているもんだから、もう、デコボコ道の衝撃が直接!背中に響くっていうより、背中を蹴り上げられているかのようだ!

 あれほど、陸送が危険だ!って話になっているのに、これはイイのかね?空輸の前のこの手荒い搬送は陸送に入らないのかーっ?

 あうー!!もっとゆっくりー!!

 小さなトラックの荷台からはコンパネの一部がはみ出ているような状態。振動でコンパネがずれてって、スタッフが押さえていないと、そのまま、道に放り出されしまいそうだ。

 そして、実はヘリポートまで結構な距離なんだ!

あうー・・・!あうー・・・!痛いよー・・・!

 すると、ポケットの中の電話が鳴っている!

 片手で荷台の手すりにつかまりながら、電話に出るとそれは小林先生!

 大丈夫ですかー!安静にしてますかー!日本のドクターチームからとにかく、体をひねるな!って指令がきてますよー!

 あわわわわーっ!ただいま、ト、ト、ト、トラックの荷台に乗せられてへ、へ、へ、ヘリポートに向かっていまーす!安静とはまったく!かけ離れた状態デ、デ、デース!!これから飛びまーす!

 このまま運が良ければ、後ほど、イスラマでー!!

 ようやく、トラックが止まった・・・。

 ヘリポートのゲートの前でしばらく待たされる。

 すると、エージェントの現場責任者がトラックの荷台の私を覗き込みながら、延々とカタリはじめた。

 いかに、このヘリのチャーターが大変な仕事であったか!毎日、空軍のオフィスに通い、頼み込んで、多少なりのプレゼントや賄賂を渡し、どんなにか大変だったか!

 今日のフライトも本当は無理だと言うのを頼み込んで、頼み込んで実現したんだ!

 オレって良くやったなー!オレ万歳!!

 うむ!近うよれ!

満足げに身を乗り出した彼の肩に手を回して、彼を引き寄せると・・・・

 だ・ま・れ!!

 このヘリは日本大使館と日パ・トラベルとウチのマネージメントスタッフがチャーターしたヘリだ!そもそも、初日にヘリが飛ばなかったのはオマエのところのデポジットマネーが足らなかったからだろ!オレが知らないとでも思っているのか?

 これ以上デタラメ言うと、オーナーのアシュラフ・アマン(パキスタンの英雄 パキスタン人最初のK2サミッター)やラルフ(最大顧客)にチクルぞ!!

 彼の顔色はサーっ・・・・と変わると、もう何も言わなくなってしまった。

 ディルクはすでにヘリの横で待っていてくれて、さらに驚いたことにBCを撤収して歩いて戻ってきているはずのキッチンのスタッフや事故を免れたメンバーの一人ハンスがそこにいたのだ!彼らはBCを撤収すると普通は1週間ほどかかる帰路を2日半で走破して昨日の夜にスカルドに戻ってきていたのだ!

 願わくは明日にでも日本行きの飛行に乗ってしまえれば、もう会えないけど・・・・、もしかしたら、そうすんなりは行かず、イスラマでまた会えるかも知れないね・・・。

 ディルク!とりあえずイスラマでまた会おう!

 ヒロ!そんなこと言ってると、本当にまたイスラマで会うことになっちゃうぞ!!

 トラックが動きだし、ヘリに横付けにされた。

目の前にはもう、すっかり乗りなれた、ご存知、壊れても叩けば直るロシアンヘリコプター、Mi-8!!

ちなみにネパールとかでは飛行機が壊れて調子が悪いと、生贄をささげると飛行機が直ります。ウソじゃないよ!本当だよ!

私、一人の搬送にヘリ1台チャーターとは大事になっちゃったなー・・・

 再び、コンパネごとエッホ!エッホ!と機内に運び込まれると・・・・・。

 なーんと!!ヘリの中は大勢の乗客でギュウギュウの満員御礼!!

 軍関係者の家族づれやら、欧米人のトレッカーやら、まあ、良くある話といえば、良くある話だけど、エージェントのスタッフが私を言いくるめようとした理由がよくわかるよ。きっと、彼なりの美味しい都合ってのがあったのだろう・・・。

(結局、後日、ヘリのチャーター費用は丸ごと請求されてきた)

 そこに、平出くんと小松ちゃんが大荷物をかかえて到着!!

 もはや断ることができなくなっちゃったわけだ・・・。

 二人がヘリのキャビンに乗り込もうとすると、乗客にはかすかに動揺が・・・・。

 そして、エライ人の一声で、後ろの方にこそーっと乗っていた、3人の軍関係者はガッカリ・・・って感じで降ろされてしまった・・・。

  初めて乗るヘリコプターに、イタイケな小松ちゃんをよそに、聞きなれたヘリのローター音が甲高くなっていく。 

蒸し暑い機内で相変わらずハエにたかられながら、背中に伝わるヘリの心地よい振動に去年のカンチェンジュンガ終了後にローツェに継続したときに乗ったときにヘリから見た景色を思い出していた・・・・。

あの時にはこんなことは想像もしていなかったな・・・・。

背中でヘリが空中に飛び立ったことを感じた。いざ!イスラマへ!!

その頃、見捨てられたことも知らない加藤くんは、運転手さんが勘違いして、スカルドとはまるでかけ離れた、ギルギットに一路!向かっていたのでありました・・・・!

つづく!!

Comments

2

おやじ

加藤君の運命は、いったいどうなるんでしょうか? ワクワクドキドキ

1

ロッキー

やったね!イスラマバードばんざい! 早く日本に帰ってきてほしいような、ほしくないような・・。まだまだ、続きそうですね。 がんばれ~