ベナジル・ブット暗殺。

 これまで、何度もの失脚と暗殺未遂から不死鳥のように復活を遂げてきた彼女も今回はその羽を永遠に折られてしまった。

 前にも話したようにパキスタンでは対立軸が複雑に交錯しているために、今回の暗殺が政治的対立によるものと決めることは難しい。

 7月に起きたラージ・マスジッドへの強行突入に彼女は早い段階で支持の立場を表明していたので、それに関わる個人的、思想的報復の可能性のほうが高いのかもしれない。

 仮にも彼女が暗殺されず、1月に予定されている選挙で彼女が率いる野党パキスタン人民党(PPP)が勝利を収めたとしてもパキスタンの政治的混乱が収まるわけではなかっただろうが、いま、彼女を失ったパキスタンは、これまで微妙にも保っていたバランスを一気に崩してしまう可能性にさらされている。

 彼女の政治的思想や手腕はさておき、確かに彼女はパキスタンという不安定な天秤に乗った大きな分銅であった。

 突然、大きな分銅を取り去られた不安定な天秤は、これまで、かろうじてその最大振れ幅の中で収まっていた微妙なバランスを完全に失ってしまうかもしれない。

 建国60年を経て蓄積されたこの歪はそう簡単に解決に向かうとは思えない。いま、求められるのはこの、報復と復讐を繰り返す負の連鎖をパキスタンの人々一人ひとりが断ち切ろうとするしかないのであろうが、それが簡単なことでないことは、皮肉なことにこのパキスタンの歴史と現状が証明してしまっているのかもしれない。

 せめて、この混乱を過渡期として乗り越え、この犠牲をいつか訪れる平和への礎になることを願わずにはいられない。

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