※このブログは
報知新聞社様のご協力により再掲出したものです。
尚、当サイトにおける公開は2020年1月20日です。
パキスタン入院顛末 その16 最終回!!
よし!!帰れるぞ!!帰るぞー!!
空港に向かうための救急車はすでに手配済み。その救急車にも「松竹梅」って感じのプライスリストがあって、大住さんのお計らいで特上松の救急車を注文していただいた。
さあ、荷物も片付け、あとは空港に向かうばかり。
ちょうど、その日の担当の看護師さんが件のファトマさんだったので、加藤くんの熱烈的!な要望で彼女を交えて、記念写真を撮ろうって話になったのだ!
ファトマさんに一緒に写真に入ってもらえる?って申し出ると彼女は、かわいらしくニッコリ!微笑むと、
看護師長さんに許可をもらってくるのでちょっと待っててね。
しばらく待つと・・・
おばさんって言うか、おばーさん??って感じの看護師長さんと一緒に戻ってきた。
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まあ、いいか。では記念写真を!
加藤くんはファトマさんの隣に並ぶべく、その一瞬のタイミングを逃すまい!と身構えている!
今だぁ!!
加藤くんはすかさず、イメージトレーニング通りの豹のような身のこなしで、ファトマさんの横に体を滑り込ます!
が!!!
その2人の間に、ズイ!!っとその看護師長さんが割り入ってしまいました!
メデタシ、めでたし・・・・。
その写真はベッドに横たわる私を前に、みんなが笑顔で立ち並び、まるで、ハンティングで大物!を捕まえたぜー!!てな感じだ。
さあ、あとは特上松の救急車が来るのを待つばかり・・・・
と、その時、病室にやって来た大住さんが、ふっと、私のベッド横にあるドレナージのボックスを見て・・・・
まさか、このボックスも一緒に飛行機に乗るんじゃないよね???
小林先生が
いえ、このボックスも一緒に乗りますよ。それが?なにか?
大住さんは、あっちゃー・・・!って感じで、
これじゃ、乗れないよ!絶対に乗れないよ!!こんな、血がたっぷん、たっぷん、してるような容器と管が体に刺さったようなの見たら、いくら医者がOKっだって、係員が、ビビって拒否されるよ!!
なんったって、相手はいい加減なんだからさ、乗せるっていうのも、乗せないっていうのもその時に決まっちゃうんだから、こんなの見たら、とりあえず断るぞ!で、一度、断られたらもう二度とOKなんか出ないぞ!
どーする???
空港に向かおうとしていた矢先、時間はあと20分か30分しかない・・・・
うーん・・・・どうしよう・・・・
ここまで数々の無理難題、無茶無謀を乗り越えてきた、さすがの小林先生も、腕組みをしたまま考え込んでしまった・・・・。
うーん・・・もう、こうなったら、最後の手段です!
ドレナージのボックスを外してしまいましょう!それしか無い!!
でも・・・外しちゃって大丈夫なのかな・・・?
考えもしていなかった、突然のことで小林先生もちょっと不安気味だ。
小林先生はすぐに日本の増山先生(呼吸器)に電話で確認して、OKがでると、すぐに行動に移った。
その極秘計画とはこうだ!
ドレナージのボックスを外し、滅菌処置した状態のチューブは折りたたんで服の中に隠してしらばっくれて飛行機に乗っちゃう!
そして、加藤くんがお土産のふりして手荷物で持ち込んだ新しいドレナージのボックスを離陸後、ラホールでの駐機時間にこっそり、つけ直してしまえ!というものだ。
もう、離陸してしまえば、途中で降ろすわけにはいかないでしょ!ごめんあそばせー!!って戦法だ!
もう、時間はわずかしか残されていない。
必要なものがたくさんあるんだ!
新品のドレナージのボックスやら滅菌手袋やらクランプやら・・・・
日本ではそんなのどこで売っているのか見当もつかないけど、ここはパキスタン!街のお店で売ってるんだって。
私の床づれのチェックと飛行機内でのアドバイスをしてくださりに、たまたま病室に来てくれていたJICAの林寿恵さんが車をぶっ飛ばして、何軒ものお店を回って無理やり買いそろえて来てくれた。
ここは絶対に素手で触らないでください・・・・
チューブをつなぐ時の手順はこうで、これをする前に、ここを開かないでください・・・。
ここを握って・・・こうして、こうです・・・。
ここは特に気をつけてください・・・・・。
うーん・・・・なんだか難しそうだぞ・・・・・。
加藤くんにできるのかな・・・・・。(その時、すでに加藤くんは手続きのために空港に先発してしまっていたのだ)自分でできないからなー・・・加藤くんに説明してやってもらわなければならない。
加藤くんに命を握られるこの不安・・・。
ヤバいなー・・・この時とばかりに、不慮の事故を装って、なにか仕返しとかされるのかも・・・加藤くんの秘密もいろいろ握ってるからなー・・・抹殺されるかも・・・。
いや!あのカッコいい加藤くんなら大丈夫!なんってたって、ボクたち親友だし!
信じてるさ!!
ふーっ・・・よし!
小林先生の安堵のため息で、準備はぎりぎりで間に合った!!
後で、小林先生から聞いたことだが、実はこの土壇場で突然勃発した難問には、本当に言葉を失ったそうだよ・・・。
いよいよ、ベッドが病室の外に運び出されようとするとき、ディルクが病室に駆けつけてくれた。
ディルク!ありがとう!必ず治ってみせるよ。必ず、また一緒に登ろう!
ああ、ヒロ!約束しよう!必ず、また一緒に登ろう!
ディルクは私の手を握りながら何度も何度もうなずいていた。
ディルクも国に帰れば、きっと、私以上の試練が彼を待っているだろう。
花束を持ったアシュラフ・アマンも駆けつけてくれていた。
玄関で少し待たされて、松の救急車が到着した。
それは、ここに運ばれるときに乗った、ボロボロのハイエース。なーんだ、これが松か・・・。梅とかってどんなんだよ?リヤカー?
救急車の中に運び込まれた私の手をディルクはまだ握っていた。ただ、言葉もなく、ただ、握っていた。
ヒロ・・・またな!
彼は、まるで、また明日も会うかのように振り向かずに降りていき、バッタン・・・とドアが閉まると、潜んでいた暗闇が立ち昇るように私を包み始め、狭い空間に充満した。
あの雪崩に巻き込まれたときの暗闇がふたたび襲ってきたかのように感じた・・・。
思わず、目を堅く閉じ、その暗闇から逃れようとすると、
雪崩に巻き込まれる、ほんのわずか前に目を見合わせて、うなずき合った、仲間の顔・・・・ここまで、私を救ってくれた人たち一人、一人の顔・・・が浮かび上がる・・・。
・・・雪崩に飲み込まれた時のように思いっきり目を見開いて、その暗闇の中に光を探した。
ちきしょー!!絶対に治ってやる!!絶対に、絶対に治ってやる!!
本当は大声で叫びたかった・・・でも、その声をかみ殺した・・・砕けたその声の破片が血管を駆けめぐり体中に刺さったかのように痛みが湧きったってくる・・・。
息を大きく吸い、折れている肋骨に感じる痛みで、その痛みを打ち消そうとした・・・。
さあ、とにかく、今は帰ろう・・・。
その救急車は押さえてもらっていないと、床に滑り落ちてしまうので、平出くんが空港まで付添で乗り込んでくれていよいよ出発!(平出くんと小松ちゃんはこのままパキに残る)
空港に着くと、大使館の皆さんも総出で見送りに来てくださっていた。
スミマセン・・・スミマセン・・・本当に申し訳ございません・・・・。私のようなバカな日本人一人のためにご迷惑おかけして、ホントにゴメンナサイ・・・・。
本当に大使館の皆さん、日パトラベルの皆さんにはとんでもないご迷惑をおかけしてしまった・・・。
私だけ特別なゲートから飛行機に乗り込むため、また別の車に乗せ換えられる。
皆さん、本当にありがとうございましたー!!
閉められたドアのフィルムに映るみんなの影が手を振っている。きっと、外からは見えないだろうけど、何度も手を振り返さずにはいられなかった。
そのまま飛行機の下まで運ばれると今度はリフトで運び込まれる。
幸い、そのリフトは貨物室の入口を通り越し、客室の入口に向かい、私の乗ったストレッチャーは神輿のように担ぎあげられるとキャビンの一番後ろに作りつけられたベッドに運び込まれた。
機内では、ちょうどこの飛行機で帰国する予定だった飛田さんと寺沢さん(スパンティークに来ていた)が待ち構えてくれていて、いろいろ気を配ってくれた。さらにご迷惑の輪が広がっていく。本当に申し訳ありません・・・。
しかし、このベッドは想像をはるかに超えたベッドだね。
ベッドって言うか、ただの台だ。
まず、とにかく高い!ベッドの高さはつまり、通常の座席のヘッドレストのある高さと変わらない。下がどうなってるのかは、わからないけど、通常の座席のヘッドレストの上に板でも載せて作ってあるかのようだ。頭が進行方向を向いてる。
ご参考までに料金は8席分。
飛行機は満席。いやー・・目立つ、目立つ・・・。まるで見せものだよ・・・。
しかし、きっと、こんな乗客はいい迷惑なんだろうな。日本人のキャビンアテンドさんが乗っているんだけどさ、目が合ったら、思いっきり目をそむけられちゃったよ・・・。その後も彼女たちは私のいる所だけ避けて歩ってたよ。
あーあぁ、こんなのが乗ってきちゃって、今日のフライトはツイテないわ!さわらぬ神に祟りなしだわ!って感じだろうね。
いや、まったくご同情いたします・・・。せめて、途中で投げ捨てないでくださいね。
そして、ついにテイクオフ!!その時を迎えた!!
機体が動きはじめ、加速していく。
いけー!飛んでしまえー!飛んでしまえばこっちのもんだー!!
オマケのように付けられてる3本の固定バンドは全く役に立たず、体が、ずりーっ!と後ろにずれていく。
のわー!!!
加藤くーん!押さえてー!!
慌てて、飛田さんや、近くに乗り合わせた見ず知らずの乗客の方が私の体を押さえてくれる。
機体が宙に飛び立ち、そして地面が遠ざかっていく感覚を背中に感じる。
やったー!ザマーみろ!!
イスラマバードの空港が工事で早くに閉まるので時間調整のため、ラホールで1時間の駐機時間がある。
ラホールへの着陸では、再び体がずりーっ!とずれていく。
のわー!!!
また、みんなが慌てて押さえてくれる。
さあ!加藤くん!作戦開始だ!!
怖いから・・・じゃなかった、加藤くんを信じて、見ないようにするよ!
そして・・・どうやら、終わったらしい・・・。途中、寺沢さんの、ちがう!ちがう!って声は聞こえなかったことにするよ・・・。知らないことのほうが幸せなこともあるからね・・・・。
で!もう、こうなっちゃえばコッチのもんだ!
あとは、北京でもう一度、駐機時間を乗り越えれば!
ニッポン!!
のわー!!な着陸と離陸を繰り返し、ついに、飛行機は成田に近づいていた。
そして、ついに成田へのファイナルアプローチへ。
さあ!いよいよだ!この時のために、これまでを乗り切ってきたのだ!思い返せば長く苦難に満ちた道のりであった!
・・・・その時、成田が雷雨で少し揺れるとのアナウンスがあると、飛行機はガタガタと揺れ始めた。
ガタガタ、ガタガタ・・・・ガン!ガン!ガン!!
上下に大きく揺れたかと思うと、
ドォォー!!とジェットコースターのように急行下して体がベッドから浮き上がる!
体はベッドからどんどんズレていく!
わーっ!やばーい!落ちるー!
立っているなんて、とても不可能なような揺れのなか、加藤くん飛田さん、近くの乗客が一生懸命押さえてくれる。
いままで乗った飛行機でこんなに揺れた経験はない。
あちこちから女性の悲鳴があがる。
飛行機は巨大な乾燥機の中に叩き込まれてしまったかのようだ。一向に揺れが収まる様子はない。
しばらく、すると飛行機は機首を起こし、高度を上げたかのように感じた。そして少し、揺れが収まってきた。
きっと、アプローチし直すのだろう・・・。
しかし、一向に高度が下がっていく気配はない・・・・
しばらくすると・・・・
えー・・・・当機はただいま、仙台空港に向かっております・・・・
えー!!!センダイー???
成田の天候が悪くて着陸できず、仙台空港に向かうというのだ!
ナニそれー!!確かに仙台も日本だけどさ、帰りたいのはそことは、ちがう日本なんだよ!
なんてこった!!
もはや、ここまで帰れないとは、絶対に呪われてる!
なんの呪いだ?誰の呪いだ?アレか?それとも、アレか?身に覚えが多すぎてわからん!
仙台空港で成田の天候回復を待つことになった。
きっと成田で待ってくれていた事務局の古野さんや病院で待っていてくれる柳下先生も吉本新喜劇のようにひっくり返ってるに違いない!
そして、ようやく仙台空港を離陸!成田に向かったのだが、またしても、もう、ジェットコースターのようだ!
これ、ちゃんと軟着陸するのかな?ここまで来て、また落ちたくないよーう!
私を押さえてくれている人たちのほうが危険な状態だ。
ガガガガッ!ガガガガッ!という音が機体全体から聞こえる。外が見えないので滑走路に近づいているのかどうなのかは全くわからない。
その時、ダーン!と地面に車輪が触れるとワンバウンドして着陸した!
同時に体もベッドの上でワンバウンドしてずり落ちていく!
ひゃー!!
みんなが押さえてくれていなければ絶対に落ちて、どうかなってる!
ようやく、飛行機は地面に触れて速度を落としていく。
はー・・・やったー・・・・
そして、いつも通りに機体はゆっくりと停止し、なにごとをも忘れたように人々は席から立ち去っていく。
すべての乗客が降りるのを待って、私は後方のドアからリフトへ乗せられようとしていた。
雨はやみ、わずかな雲の切れ目から薄青い空が見えていた・・・・。
さらば!パキスタン!次は負けないぜ!!
次っ???懲りないね・・・マッタク・・・。
!!おわり!!
追伸?
加藤くん、本当にありがとう!もし!万が一!加藤くんに助けが必要になったときは、絶対、必ず助けに行くぞー!
でもパキスタンはヤメテね・・・。
皆さまへ
成田到着後、私はただちに東京医科歯科大学付属病院に搬送されました。そして手術後は、順調に回復をしております。
日本に戻ってからも多くの方々にご迷惑をおかけいたしました。
私の命を手渡しでリレーし、救ってくださった皆さんにはありきたりの感謝の言葉では私の気持ちを伝えることはできません。
今後、一日も早く登山に復帰し、登山を続けていく姿を見ていただくことこそが私にできるただ一つと思っています。
目指す頂にたどり着くには登り、歩み続けるしかありません。
それまで、どんなに早く登ってこようとも、どんなに困難を乗り越えてきても、頂上の手前で立ち止まってしまっては、その頂上は決して近づいてきてくれることはありません。
今回の事故で私の歩みは少し遅くなってしまったかもしれませんが、決してその歩みを止めることなく目指す頂に向かって歩み続けていきます。
これまでも、乗り越えてきたつもりです。今度も必ず乗り越えてみせます。
これからも、皆さんのご声援をよろしくお願いします。
ありがとうございました。
竹内洋岳
Comments
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マッシュアップサーチラボ
パキスタン の情報を最新ブログで検索してみると… パキスタンに関する情報を最新ブログやユーチューブ、通販商品から検索してマッシュアップしてみました。
4
ロッキー
おかえりなさい! 帰ってきてるとわかっていてもハラハラ!ドキドキ!しました。本当に帰ってこれてよかったですね。 最後の言葉心に響きました。これからも頑張ってください。応援してます。
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小林 誠
「入院顛末」シリーズ完了お疲れさまでした。イスラマバードで起きたあの事件(そう、私には事件でした)に関わった私さえ、再びこのブログを読むと心臓がドキドキします。先日竹内さんの元気な姿を拝見してとても嬉しく感じたのは、あの時の苦労・緊張があったからだと思います。それから力不足の私を助けてくださった「ドリームチーム」の皆様には感謝しております。竹内さん、それから他の登山家の皆様、パキスタンではケガをされないようにお気をつけ下さいね。
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fumicoba~cyan
お帰りなさい!!(いろんな意味?で) 想像したくないほどの痛みの中、冷静な、客観的な、なおかつ面白い観察力の凄さに尊敬してしまいました。さすがです。 支えてくれた皆さんの思いを背負っての(かなりの重さと後押しと思います)次回の登頂を楽しみにしています。 キカイダーマンではないので無理なさらないでくださいね。また楽しい(?)連載を期待してます。
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matsu
ついに感動の最終回…(ノ_・。) 最後の最後まで本当にギリギリの所で帰ってこれたんですね(ρ_-) 本当に大変だったんですねぇ… 事故後は情報が全く入ってこなくて心配しましたが…まさかこんなに波乱万丈だったなんて思ってもいませんでした(;_;) 次の目標は一日も早く蒼天の山の頂に立つ事ですね('-^*)/ 焦らず確実に治してください(・ω・)/ 長期連載お疲れ様でしたo(^▽^)o