Fh030017

2001年6月30日

 ナンガパルバットの頂上は、8126mであることをすっかり忘れてしまうような、静かで、暖かい場所でした。

天気は無風快晴!遠くにはバルトロの山々が見えている。

 夜中の1時に7100mのファイナルキャンプを出発した私たちは、頂上台座の基部までのラッセルを代わる代わる、ジリジリと頂上に突き上げるクーロワールに近づいていました。

そこからは、ラッセルはそれほど無く、私はラルフや、ベイカー等に、「頂上で会おう!」と目配せをすると、後ろを振り返ることなく登り続けました。

 私が頂上に着いたとき、他のメンバーはかなり離れてしまっていて、

私は約1時間弱を、贅沢にもナンガパルバットの頂上を独り占めすることができたのです。

 誰かが上がってこなければ、登頂写真を撮ってもらえない・・・

 まだ、しばらく誰も来る様子が無かったので、穏やかな頂上で、まさに頂上の石に腰をかけて、のーんびりしていたのです。

その時、

 自分が置いた右手の岩の割れ目に、なにか鈍く銀色に輝く筒のようなものが挟まっていることに気がつきました。

 割れ目から、引き抜いてみると・・・

それは、シガーケースほどのアルミの筒で、ワイヤーとピトン(ハーケン)で頂上の石に打ち付けてあります。

 手袋を外して、キャップを回してみると・・・

中に丸められた紙切れが入っている・・・。

 そーっと取り出してみると、

 そこには、何やらが記されている。

英語か?なんだか読めない文字の最後には、見覚えのある字が・・・

「ラインフォルト・メスナー」

 メスナーのサインが記されている。

それは、1978年にメスナーが単独でメスナールートから登頂した際に頂上に残したものだったのです。

 1970年の登頂では、弟のギュンターを見殺しにしたと非難され、登頂までも疑問視された彼は、1987年に登頂した際に証拠として何十枚もの写真を頂上で撮ったと言われています。

この、アルミの筒に収められた紙切れも、彼が登頂の証に残したものだったのでしょう。

その紙切れ、よく見てみると・・・

メスナーのサイン以外にも、何人かのサインが書き込まれてる。

 後に登頂した者が、これを見つけ、記念に自分の名前を記したのでしょうね。

ふーん・・・

そこに、ようやメンバーのステファンが頂上にたどり着いた!

やっと来たよ!

 ステファン!待ってたよ!!

ああ!ヒロ!

 待っていてくれたのか!!ありがとう!!ありがとう!!

ああ・・はいはい・・・おめでとう・・・

 ところで、ステファン、なんか書くもの持ってない?

結局、だれも書くもの持ってませんでした。

 普通、筆記用具なんて頂上に持っていかないよね。残念・・・。

このアルミの筒は、その後、誰かが持って下したようで、もう頂上には無いそうです。

私が、持ってきちゃえばよかったな・・・

写真は、メスナーの手紙を広げるステファン。

ステファンの格好からも暖かさがわかるでしょ?あまりに暑いので、彼は途中でダウンジャケットをデポしてきたんですって。

Comments

1

yuki

なんてすごい事でしょう[E:sign03]映画の様ですね[E:crying]